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2017年4月13日 (木)

「白血病は原発のせいじゃない?!」4.2学習会報告(その3:吉田由布子さん、問題提起)

3人目の講師は吉田由布子さん(「チェルノブイリ調査・救援」女性ネットワーク)。

原爆症の認定基準についてお話しいただきました。

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被爆者援護の制度(スライド資料2頁)

 配付資料1頁の年表にあるように、12年間は被爆者に何の援護もなかったのです。1957年に原爆医療法ができ、徐々に支援策が追加されました。被爆者、支援者、世論、裁判などの中で勝ち取られてきたのです。

 1995年に(現在の)被爆者援護法ができましたが、その前文には「被爆者が受けた放射能による健康被害という、他の戦争犠牲者には見られない『特別の犠牲』に着目し、国の責任において、医療の給付、各種手当の支給等、総合的な保健・医療・福祉施策を講じている」と書かれている。

 被爆者健康手帳を持っている方は、健康診断が行われ、希望すればがん検診もできる。医療保険の自己負担分はほぼ国費で補填される。一定の要件をもって、健康管理手当が支払われる。一定の疾病にかかっている人ですが、原爆の影響によるものでないことが明らかな場合には、不支給。

 今日、話題になっているのは医療特別手当。いわゆる原爆症という、「放射線との因果関係がある」と認定されるかどうかが原爆症の認定基準にかかわってくる。

健康診断と疫学調査(スライド資料3頁)

S_20170402yoshidaslide3  被爆者健康手帳を持っている方は2012年の段階で約20.2万人ぐらい。その中から放射線影響研究所の中で検査(寿命調査 LSS)を受けている方が12万人、さらにそのうち約2万人が成人健康調査(AHS)を受けている。被爆者健康手帳の他に、健康診断受診者証など、あとから制度を広げることも行われている。

 死因やがんの疫学調査は、手帳を持っている人全体ではなく、12万人のコホートについて行われている。

原因確率の導入(スライド資料4、参考資料)

 2001年に厚労省が原爆症の認定基準に「原因確率」を取り入れた。甲斐倫明氏の資料によると、「原因確率」は、

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で計算され、疾病、被ばく時年齢、被ばく線量により異なる。

認定にあたって、厚労省は、

1)原因確率が概ね50%以上:原爆放射線の影響の可能性があることを推定⇒認定

2)概ね10%未満:可能性が低いものと推定⇒認定却下

3)10%以上50%未満:個別判断

と定めた。

「原因確率」の実態(スライド資料5)

S_20170402yoshidaslide5  これは男性胃がんの原因確率の表ですが、50%を超えるのは6歳までの子が1000センチグレイ(=10Sv)以上被曝したときだけ。そうすると10グレイ浴びても生き残って胃がんになれば間違いなく認定されます、というとんでもない話で、みんな死んでしまう。

 1.4キロ以遠だと子どもでも10%以下なので、原因確率をあてはめると、認定されるのは非常にむつかしい。

審査方針の見直しへ(スライド資料6)

 原因確率の考え方に対する批判が高まり、認定却下された人たちの集団訴訟で国の敗訴が続いたことから、「原爆症認定審査の在り方に関する検討会」で審査方針の見直しを論議することとなった。

検討会と与党プロジェクトチーム(スライド資料7)

 ほぼ放射線の専門家が委員となって検討会が開かれた。これと平行して、当時の第1次安倍内閣の与党だった自民党・公明党のプロジェクトチームも、認定基準見直しの検討を開始しました。

与党プロジェクトチームの考え方(スライド資料8)

 与党の考え方は、「これまで厚生労働省が行ってきた認定行政に対し幾多の裁判例、世論より厳しい批判が出された、と。現実的救済につながっていない今の「原因確率論」を改めるべきだ、と。現実的救済措置を実現するために、次のように提案したい、と。」

二つの見直し案(スライド資料9)

 ここで二つの案が出たんですが、専門家が中心の検討会の方は、「原因確率を放射線影響の判断の目安として使うことは合理性があり、適切に用いるべきである」。

 一方、自民・公明のプロジェクトチームは、「がん、白血病などの典型症例において、爆心地から一定区域(約3.5 キロメートル前後を目安)以内で被爆した者等については、積極的かつ迅速に認定を行うこと、それ以外の被爆者についても総合的に個別審査を行うこと」を提言しました。

 両方とも、2007年の12月に出されたが、「検討会」の報告は従来の認定制度の考え方を踏襲したもので、被爆者団体から大きな抗議・批判があがった。政府は、その時は福田内閣だったんですが、与党プロジェクトチームの提言をほぼ受け入れる形で認定審査の新方針を決定しました。

2008年の見直し(スライド資料10)

 2008年3月から、「放射能の影響による」と積極的に認定する範囲を「被爆地点が爆心地から約3.5キロ以内である者、原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2km以内に入市した者、原爆投下より約100時間経過後から、原爆投下より約2週間以内の期間に、爆心地から約2km以内の地点に1週間程度以上滞在した者」は積極的に認定しましょう。

 対象疾病としては、悪性腫瘍や白血病など、格段に反対すべき事由がない限り、申請疾病と被ばくした放射線との関係を積極的に認定する、という形に変わった。

距離と被ばく線量(スライド資料11) S_20170402yoshidaslide11 3.5キロなんですが、これは距離と被爆に関する厚労省の見解です。配付資料の2~3頁に大きい図を載せています。下の方に、わざわざ「一般公衆の線量限界:放射線従事者でない一般人が許容できるとされる被曝量(年間)」と書いている。その一般公衆の線量限界は1.0ミリシーベルトで、それに大体相当するのが、ヒロシマの場合は3.25キロであると書き、ナガサキの場合は3.55キロであると説明しています。

 実際には距離からだけでは個人の被曝量は推定できないわけで、よく批判があるように、内部被ばくがほとんど無視されている、ということもあります。初めに線量ありき、なので、その人がどういう症状があったかというのは、どちらかというと見ない。何か症状があっても、こんな線量だから放射線のせいとは考えられない、というところから始まってしまうので、自分たちが考える線量と放射線影響という見方では、なかなか因果関係が認められない。

 この距離で1ミリシーベルトだよ、というのは、国がそういう推定をしている。それが正しいかどうかは別だが、国としてはそういう推定をした。それで3.5キロが導き出されている。

(スライド資料12)

S_20170402yoshidaslide12  2002年に出された被曝量の評価DS02で見ると、4キロの地点になると、ヒロシマでは0.05mSv、ナガサキでは約0.2mSvとなっている。しかし被曝地域とされた地域は、3.5キロの中だけとか2キロの中だけということはなくて、もっと広い範囲なので、そこにいて被ばくした人は申請して被爆者健康手帳をもらえるという権利は持っている。

波及への懸念(スライド資料13)

 この審査方針が出たときに、これが他の被ばくによる健康問題に影響を及ぼすと困ると思った委員がいた。この方針案を審議して了承したんですが、原子爆弾被爆者医療分科会議事要旨(2008年2月25日)に、誰とは書いてないんですが、「この認定の方針は、つまり放射線との因果関係を積極的に認めるというのは、『原爆被爆者に限定する』ということですよね。他の戦争犠牲者との公平性も考えないといけない。これは様々な分野において放射線に被曝し、疾患が起こる可能性や、放射線診療による医療被曝の結果で、2次がんが発生するといった可能性もあるけれども、原爆症認定の審査方針がそのような他の分野に影響を及ぼすことが非常に懸念される」ことが委員から述べられたと書かれている。

 それは労災ということもありますし、福島原発事故の後の一般の私たち、被曝や健康にどういう対策を取るかということに非常に影響を及ぼしてきたと思います。

認定却下が続く(スライド資料14)

20170402yoshidaslide14

 基準は改められたんですが、その後も却下が非常に多い。

(スライド資料15)

 被爆状況や疾病別の認定状況で、上が認定件数、下が却下件数なんですが、例えば3.5キロ以内の直接被爆でも非常に多くの人たちが却下されている。

(スライド資料16)

20170402yoshidaslide16  申請疾病別の却下理由としては、「放射線起因性が認められない」とか、「要医療性」も要件になっているので、「いま医療にかからなくても大丈夫だから」みたいな理由もある。新しい基準ができて、もっと認定されるであろうと思ったが、そんな風にはいかなかった。

再度の見直し結果(スライド資料17)

 そこで、認定制度の在り方を再度見直すことになりました。この見直しが2010年から始まったが、3回目が2011年3月17日に会議が入ってましたが、中止になった。その後再開されました。今度は委員の中に放射線の専門家だけじゃなくて、行政や被爆者団体の代表も入っているが、2013年12月に検討会の報告書がまとまりまして、非がん疾患、がんではない疾患の認定基準見直しが行われました。

 心筋梗塞など「非がん」の3疾病から「放射線起因性が認められる」という条件は削除されたが、一方、爆心地から被爆地点までの距離の条件は、現行の「約3.5km以内」から「約2km以内」に狭まってしまった。白内障は加齢によるものと区別するために「約1.5km以内」とより厳格化されてしまった。逆行状態になってしまった。

被団協の抗議(スライド資料18)

 これについて被団協は同日、抗議声明を発表しました。「この検討会が本来法律の改正を伴う認定制度の抜本的な改善を目的としていたにもかかわらず、その課題を認定基準問題に矮小化し、司法判断と行政認定の乖離を解決しないまま、現状をより後退させる点に根本的な問題がある」という抗議声明を発表しました。

放射能影響判断の基準(スライド資料19)

 私も先ほど言いましたが、ある疾病が放射線被ばくの影響によると考える、あるいはそれを補償する際の基準となる被ばく線量について、原爆被爆の場合には、一応3.5キロの地点で、国は大体1mSvに当たると決めた。ところが同じ放射線被曝でありながら、労災についてもそうですし、福島以降の被ばくについて、どのような保健対策が行われるかというときに、福島県内の県民健康調査のみにお金が出ているだけで、ほかの県には出ませんし、年間20mSvで帰還を強制するような形になっている。福島原発事故以前も、他の問題に波及したらどうするんだというようなのがあったんですが、福島原発事故以降、顕著になって、複雑化しているな、と思います。

放射能影響を否定しきれない病気(配付資料の最後の頁)

 原爆被爆者とチェルノブイリ・ウクライナの、被ばく関連対象疾病比較表を載せました。健康管理手当の対象疾病なんですが、健康管理手当というのはどういう定義かというと、これも厚労省の定義ですが、「放射線の影響を完全に否定しきれない疾病にかかっているため、日常、十分に治療を行う必要があり、そのために必要な費用に充てる」という趣旨になっている。

 その病気として、少しずつ増えてきたが、造血機能障害を伴う疾病、再生不良性貧血や鉄欠乏性貧血など。肝機能障害を伴う疾病、細胞増殖機能障害を伴う疾病(悪性新生物など)、内分泌腺機能障害を伴う疾病(糖尿病、甲状腺機能低下症など)、脳血管障害を伴う疾病(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞など)、循環器機能障害を伴う疾病(高血圧性心疾患など)、腎臓機能障害を伴う疾病(慢性腎炎など)、水晶体混濁による視機能障害を伴う疾病(白内障)、呼吸器機能障害を伴う疾病(肺気腫など)、運動器機能障害を伴う疾病(変形性関節症など)、潰瘍による消化器機能障害を伴う疾病(胃潰瘍、十二指腸潰瘍など)。

 これらは、放射線の影響を完全に否定しきれない病気にかかっていて、そのために日常、健康上の治療を行う必要があるという趣旨で、健康管理手当が支給される。放射線の影響によらないことが明らかな場合には、手当は支給しないが、そうでない限り支給される。

 右にチェルノブイリの事故による、放射線や他の要因により被災した成人住民に生じる可能性のある疾病リスト。成人とこどもと、両方リストありまして、これはOurPlanetTVの白石さんがウクライナで入手された物ですが、ほぼ、原爆被爆者の疾病と同じ。血液と造血器官の疾病、慢性肝炎、悪性新生物、甲状腺の疾患、脳関連の疾患、循環器系の疾患、白内障や呼吸器疾患、消化器疾患。ちょっと変わっているところもありますが、原爆の方になくてチェルノブイリの方にあるのは、脳の器質的損傷による精神障害、神経系と感覚器の疾病等々。

 子どもさんのはもう一つ別にある。

 さまざまな病気を「放射線との関連を否定しきれない」と言いながら、原爆症認定、労災、福島原発事故以降の住民の健康等々については、自分たちで作った、放射線を浴びた人たちへの特別の法律が、まったく活かされていない、というのが現実だと思います。ダブルスタンダード、トリプルスタンダートになっています。活用できるものは活用していくべきではないかと思います。以上です。

放射線起因性に関する問題提起(温品惇一)

 吉田さんへの質疑の最後に、被ばくによる健康影響評価について、温品から以下の問題提起をしました。

 資料はこちら(9頁~ )

 動画はこちら

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http://csrp.jp/csrp2016/images/portfolio/slide/LEURAUD-J.pdf
注:CLLは慢性リンパ性白血病 RBMは赤色骨髄 

 例えば白血病の場合、原発労働者の国際調査(INWORKSでは、1Gy(=1㏜)被ばくすると白血病死亡率が3倍増えると報告されています。

 20mSv被ばくすると、追加被ばくゼロ(=自然発生)の場合の白血病死亡率の6%増える、という計算になります。

 話を簡単にするために、自然発生の白血病死亡率を1万人当たり100人と仮定します。

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 被ばくしていない人1万人を調べると、100人が白血病で死亡するという仮定ですが、20mSvずつ被ばくした人1万人では、6%増えて106人が白血病で死亡します。被ばくで白血病になったのは、増えた6人だけでしょうか?

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 1万人が20mSvずつ被ばくすれば、ほぼ全員の白血病リスクが平均6%高くなり、その結果、106人が白血病になったわけですから、106人全員が被ばくの犠牲者です。被ばく影響は6人だけではなく、106人全員です。

次回学習会は5月13日「内部被ばくはこうして隠された」

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文責:温品惇一

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