ガラスバッジで測ると、なぜ線量が低くなるのでしょう?
ガラスバッジなど個人線量計は、身に着けて使うので、二つの問題が起こります。
第1は、身に着けている人自身の体が、背後から来る放射線を遮蔽してしまうことです。
このため、福島原発事故後のように四方八方から放射線が飛んでくる状況では、個人線量計は実際に被ばくした線量の68%しか測っていないことが確かめられています。
個人線量計で測定した値を1.47倍すると、正しい被ばく線量が得られます。
四方八方から放射線が飛んでくる場所に、個人線量計を着けた人を立たせることを模擬して、個人線量計を装着した人体模型(ファントム)を体軸を中心に回転させ、セシウム137のガンマ線を照射して個人線量計の値を調べた結果、回転させると前方だけから照射する場合の68%しか測定されないことが分かりました。 |
原因その2:屋内では遮蔽され、線量が低くなります
木造家屋では放射線の6割が遮蔽されるとされています。個人線量計を身に着けて測ると、屋内では4割になった線量を測ることになります。
ガラスバッジでは無理ですが、半導体型の個人線量計なら、高線量被ばくした日時を知ることができるので、被ばく削減に役立てることもできます。
他方、同じ空間線量の場所にいる人でも、屋内の滞在時間や建物・車など遮蔽物の種類によって、個人線量計の測定値はマチマチで、住民の線量限度(年間1mSv)が守られているかどうか、確認することができません。
ここで住民の線量限度について考えてみます。
放射線は1本1本が膨大なエネルギーを持っているので、どんなに少ない線量でも、線量に比例して健康影響を生じさせます。自然放射線でも、人工放射線でも同じです。
実際、例えばスイスで、自然放射線の高い山岳地域と、低い地域とで子どものがんを調べたところ、累積1mSvでがんが有意に増えることが分かっています。
被ばくはできるだけ低くすることが大事です。
住民の被ばく線量は誰でも年間1mSvを超えないよう、決められています。
どんなに少ない線量でも健康影響を生じるので、1mSv以下なら安全なわけではありません。「年1mSvを超える被ばくは誰にもさせません」という原発企業・政府の約束です。
「誰でも」1mSvを超えないようにするには、どうしたらいいでしょうか?
私たちが屋内に入ると、放射線は建物によって遮蔽され、被ばく量は少なくなります。屋外にいる時間が長い人は、被ばく線量が高くなります。24時間外にいる人は一番線量が高くなり、それを超える人はいません。
屋外の空間線量が1年間で1mSvを超えなければ、その場所にいる人は誰も1mSvを超えないことになります。
木造家屋では放射線の6割が遮蔽され、屋内の線量は屋外の4割と言われています。コンクリート造ならもっと遮蔽されます。
ガラスバッジなどの個人線量計を身に着けて測定すると、屋内にいるときは遮蔽された線量を測定するので、線量は低くなります。しかし、個人線量計の値は、屋内にいる時間が少ないほど高くなります。
線量限度が守られているかどうかを確かめるためには、誰も線量限度を超えていないことを確認しなければならないので、空間線量の測定が必要です。
原発の敷地境界に作られる周辺監視区域のまわりには柵が作られ、住民の立入は禁止されます。その外側の空間線量は1mSvを超えてはならないと定められています。現在の日本の法体系では、住民の線量限度1mSvは、このような形で規定されています。
線量限度1mSvが守られているかどうか、外部被ばく線量は1センチメートル線量当量(=空間線量)で測ると規定されています。
住民の線量限度・年1mSvが守られているかどうか、あるいは年20mSv未満になったかどうか、ガラスバッジなど個人線量計で測ろうとしたりするのは、法規制に違反する行為です。
(文責:温品惇一)
線量限度は「計画被ばく状況から個人が受ける、超えてはならない実効線量又は等価線量の値」と定義されています(ICRP 2007年勧告・用語解説)。
「炉規法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)」にもとづく実用炉規則(実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則)第2条2項六号
「周辺監視区域」とは、管理区域の周辺の区域であって、当該区域の外側のいかなる場所においてもその場所における線量が原子力規制委員会の定める線量限度を超えるおそれのないものをいう」
「核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示」
第十条2項 実効線量は、次に規定する外部被ばくによる実効線量と内部被ばくによる実効線量との和とする。
一 外部被ばくによる実効線量は、1センチメートル線量当量とすること。
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